伝統的な曲げ輪職人足立照久がつくる米処新潟県の天水田でつくった絶品コシヒカリ

名前：足立照久さん
在住：新潟県長岡市寺泊山田地区
趣味：曲げ物作りで培った木を曲げたアート作り
　　　美味しいグルメを求めて足を運ぶ

今回のプロジェクトの生産者である足立照久さんは足立茂久商店にて篩（ふるい）や裏漉（うらご）し、わっぱを製造されています。
足立茂久商店の歴史は江戸時代まで遡ります。もともと寺泊山田地区は曲げ物の産地として栄えた地域です。時代の変化とともに需要は減っていき、今では足立茂久商店が残存している数少ない曲げ物工房として残っています。

曲げ物は、篩（ふるい）や裏漉（うらご）し、わっぱのことです。篩や裏漉しは、新潟県内の村上や新発田の和菓子店や旅館の菓子職人・料理人など、その道のプロも愛用する逸品です。
使い込むほどに手に馴染む昔ながらの木製の道具は、機械製品では再現できない微妙な匙加減や使いやすさが生み出され、壊れてしまっても修理を繰り返して長く使っている方がほとんどだそうです。

足立茂久商店のわっぱは、いわゆる「わっぱ弁当」と少し違います。台座と本体、中敷、蓋の4つのパーツに分かれています。
足立茂久商店のわっぱは金属製品が一切使われていないためこの中に炊いたご飯を入れて、電子レンジで温め直すことができるのです。
余分な水分はわっぱ本体が吸い上げふっくらと温め直すことが可能です。

足立茂久商店は先代より、曲げ物の製造だけではなく第二の家業として米農業を行っています。“足立さん家のコシヒカリ”は、日本古来からある天水田造の田んぼでつくられました。天水田とは、河川などの水路を用いず湧き水や雨水を利用して育てる栽培方法です。

この天水田の特徴は、生活廃水などが流れ込まないため雑味を減らしお米の味をより甘く引き立てます。寺泊山田の田んぼでは両側に沢があり、その湧水と雨水を使って栽培します。そのため、米づくりにおいて一般的な田畑よりも降水量が鍵を握ります。水の確保として、沢の水脈に合わせて、貯水できるように管を引いてなるべく多くの水が田んぼへ溜まるように工夫します。

新潟県は米どころということで栽培環境に適した地域のイメージもありますが、栽培も一筋縄ではいきません。
特に今年の夏は過去最大級に暑く、稲を成長させるために一番水が必要な6、7月の時期の雨量が少なかったため田んぼの水量確保に苦労しました。
例えば、健康的な稲は葉がピンとしているのに対し、水分が減ってくると蒸発しないように葉が丸まっていきます。さらに水分が減ってしまうと先から枯れていく、といった感じです。

この葉の様子や土の乾き具合などをバロメーターにしつつ、毎朝天候に合わせ、田んぼが干上がらないように管を繋ぎ変え、田んぼに水が張れるよう足立さんが改良を重ねました。

足立さんとロカルコストアとのお付き合いは遡ること約10年前、まだ前身のリアルジャパンプロジェクト時代に遡ります。当店での足立茂久商店のベストセラーは“わっぱ5寸”です。

今年も田植え後の初夏と収穫後の秋に足立さんにお会いしました。
足立さんの作ったわっぱで足立さんの作ったお米をいただく、足立さんづくしの食卓でおもてなしいただきました。
工房で曲げ物の制作をしながら足立茂久商店代々の曲げ物作りのこと、近年のお米事情や田んぼの状態についてたくさんお話を聞かせてくださいました。

電子レンジで使えるわっぱ、伝統的な作り方を守って篩（ふるい）を製造している足立茂久商店。わっぱ作りの”気を曲げる技術”を応用した足立さんの数々の作品、そして話せば話すほどユーモラスでちょっぴりおちゃめな足立さんの人柄も私たちは大好きになりました。こんな素敵な職人がいることをぜひみなさんに知ってほしいと思います。

「足立茂久商店の道具でなければ仕事ができない」と修理を重ねて使ってくださる方も多くいらっしゃるそうです。ですが、接続部分の桜の木の皮が手に入りにくくなっていたり、裏漉（うらご）しで使う網目の部分の馬の毛もなかなか仕入れにくいのが現状です。
馬の毛は手元にある在庫や輸入品で何とかしのいでいますが、それらも品質が不安定で、すぐにブチブチ切れて使えないものも少なくありません。
加えて黒い毛の確保は特に難しく、色の違いによって食品の見栄えや品質にも影響します。
この現状が広まり、良質な材料が手に入れられるきっかけになればと思います。

足立さんの田んぼでは収穫が終わった秋からも、本業の曲げ物に集中できる状況ではありません。
田んぼ部分が削れてしまって収穫量が下がっている部分の修繕作業を行い、来年からの田植えに備える作業が必要となります。

田んぼが削れる原因としては、夏の水不足に反して、秋の長雨で水の量が増えることです。しかし、育てる稲は刈り取っている時期のため、水を吸い上げる植物が田んぼにない時期であることから水が溜まってしまい、水捌けが悪い土壌の場合はぬかるみの原因となります。改善するためにスコップでぬかるんだ場所を掘り、水の通り道を作り直します。
こういったメンテナンス作業が毎年行われていれば削れにくいですが、シーズンオフで米づくりが行われなくなった田んぼは人の手が入らないため荒れていきます。そうして、長雨や台風などにより畔（あぜ）が削れ、田んぼが削れていき他の田んぼにも侵食をしていきます。
足立さんは、そんな削れてしまった田んぼや畦（あぜ）を修繕し、復田させていくことも行っています。

材料不足と同じく、日本の農業ではこのような苦労があちこちで起きている。そんな現状もこのプロジェクトを通して知って欲しいと考えています。

足立さんのお米とわっぱ、ロカルコストア厳選の“お米を美味しくいただく品々”に加え応援の気持ちの修繕費用をリターン品としてご用意しました。

足立さんのものづくりへの真摯な姿勢と温かい人柄、そして天水田の自然の美しさをイメージしてデザインしました。
モチーフは、曲げ輪の“円”であり、人と人をつなぐ“縁”のかたちでもある正円の「米」。その「米」のモチーフに水彩の青や黄金色をのせ、天水田の澄んだ水と実りの景色を映しています。
足立さんの手しごとと天水田の風景の美しさをデザインに閉じ込めました。

ロカルコストアでは初の試みとして2025年8月には老舗醤油蔵・工芸品製造・特許技術保持の3社と提携し製造した燻製の醤油「薫煙醤（くんえんじょう）」のプロジェクトを実施し、見事成功しました。
このプロジェクトを始めるうえで、日本の醤油業界が抱える問題や木工製品の製造過程で出る廃棄物に着目し、ロカルコストア独自のネットワークで商品化しました。

前回・今回のプロジェクトを通し、日本のものづくりの現状や食文化が抱える問題の大きさを肌で感じました。同時に自分たちだけでは解決できない問題の根深さも痛感しました。

少しでも多くの方に「モノづくり」の素晴らしさを知ってもらい後世に伝えるべく、これからも日本のものづくりや食文化を発信し、事業者のみなさまと伴走し続けたいと思います。