ミシュラン16年連続獲得シェフ 小林武志の技と魂がギュっと濃縮した1万円昼膳

金曜の夜、夫がニヤニヤしながら帰ってきた。
「明日、デートしよう。」

結婚して10年、そういえば二人で出かけることが少なくなった。

六本木駅から歩く。
私の職場もここから近い。たどり着いたのは・・・「KOBAYASHI」

「ウソ？」と思わず声がでた。だって・・・
もちろん知っている。でも、私には敷居がとっても高い店だ。

伝説ともいえる中国料理の名店、東京・御田町桃の木から16年にわたり星を保持し続けた。その小林シェフの自身の名を冠した、令和6年にオープンしたレストランだ。

私は、こんな店に来られるとは思ってもいなかった。
スタッフの対応も優しく心地よい。

店内には、石や木といった自然素材が多く使われていて
品が良くシックな雰囲気でありながら、贅沢な空気が流れている。

彼「パワースポットみたいだろ！」
確かにそうだ。そこかしこから、エネルギーを感じる。

しかし、どこか懐かしい感じがする。

小林シェフが、温かな笑顔で迎え入れてくれた。
小林「ゆっくりしていってください。私の職業は調理師で、趣味は料理です。」

素敵な方、偉大なるシェフの風格を感じた。

私は笑顔に務めたが、内心はビビっていた。

だって・・・

私「ねえ、こんな店に来て大丈夫？めちゃ高くないの？」
夫「大丈夫・・・・土曜日の昼膳は1万円なんだ。」
私「ええええ？？？？ウソでしょう？！」

「私の考える中国料理を味わっていただきたい。」

この想いから、小林シェフは土曜限定で破格の1万円昼膳を始めたという。

「小林シェフの中国料理」が始まった。

山田「その日の食材でご提供する出来立ての前菜から、お好きな料理をお選びいただけます。」

よだれ鶏を発見！小林シェフといえば、よだれ鶏を世に知らしめた人物。

一口食べると
「う～ん・・・深い味だ。美味しいしか言えない自分が情けない。」
旨味と辛味のバランスが絶妙で、特製ソースに体中が魅了される。

彼は、ピータンと油林ソースを頂いた。
「ピータンと油林ソースが奇跡の出会いをしている！！！」

ピータンの独特の風味が、生きている。
特製の甘酢ソースが、二人の仲を見事に取り持っている。

夫「ボクはワインを頂きます。ペアリングをお願いします。」

KOBAYASHIのペアリングは、業界内でも有名。
※昼膳には、ドリンクは含まれていません。

なんだか、夫は機嫌が良い。何かあったのか？

夫「君も飲む？」
私「私は、今日はやめておくわ。ホントは飲みたいけど・・・」

大ぶりの海老を使用し、トマトピューレにスパイスや豆板醤（四川省産と国産の2種類）、自家製酒醸(甘酒)を合わせたオリジナルのソースで頂く。

山田「ソースはすべての調味料を自家製で丁寧に仕込み、海老の旨味を最大限に引き出すよう、こだわった逸品です。」

これが、本物のエビチリか！奥深さが違う。辛さの奥に深さが広がる。

一切の会話を中止して、食べることに集中したい。

夫「昼膳は、ディナーとメニューが違いますね。
ディナーは、モダンチャイニーズ。小林シェフが新しい料理を生み出していますけど。」

小林「昼膳は、誰もが親しみのある中国料理をご用意しました。
“身近な一皿”を、KOBAYASHIならではのアプローチでお届けすることで、
『中国料理ってこんなにも奥深く、洗練されたものなんだ』と感じていただけるきっかけになればと考えています。」

これは、ワナだと思った。私はこの素敵なワナにまんまとひっかかってしまった。

「小林シェフ！ディナーにも来させてください。この小林さんの料理の世界をもっと知りたい。」

彼も嬉しそうに笑った。
この場所は、やはりパワースポットだ。幸福な気持ちになる。

小林「北京ダックには、実は北京ダック用のアヒルがいるんです。」

KOBAYASHIでは、「北京四系鴨」を使用。
このアヒルは、中国から生きた状態での輸出が禁じられている。

つまり門外不出の食材。

鳩胸で足が短く、皮の厚みと脂の乗りが他とは一線を画するという。
小林シェフは、アヒルの香ばしさと滴り落ちる脂を美味しく味わえるように
自家製特製甜麺醤を使ったソースで頂く。

美味しくて、パクパクではなくムシャムシャ食べてしまった。

自分の中の野生が目覚めるほど、食欲がそそられた。

私は、今完全に桃源郷の夢の住人。

それを演出しているのが、次々と出されてくる器の存在。

器好きとしても知られた小林シェフがコレクションした有田焼や瀬戸の器をはじめ、繊細な絵付けが施された古伊万里が惜しげもなく料理に使われている。

夫「小林シェフは、桃李成蹊という言葉を信条にしているんだ。」

夫によると、桃やすももはなにも言わずともその芳しい香りに魅せられ、人は自然とそこへ集まり、気づけばその下には道ができる。

この言葉に通じるように、きちんと手をかけて美味しいものを作り続ければ、どれほどシンプルに見えるお料理であっても、その奥に潜む真髄と魅力は自然とお客様に伝わるというのだ。

私も桃源郷の桃に、集まってきた一人だ。

本場中国四川省の豆板醤と、シェフが厳選した自家製の唐辛子を使用。

単なる辛さだけでなく、香辛料が織りなす奥深い香りと風味を追求し、手間を惜しまず丁寧に仕上げたという。

それぞれに、こだわりがある。

旨みと香りが強くやさしい味わいの湖南唐辛子を使用し、マイルドなテイストに。肉味噌に合う豚の粗挽き肉に、高森和牛のスネ肉のコラーゲンや風味をプラスしている。

私の知っている麻婆とは、全く違う。異次元の麻婆だ。

山田「〆の麺飯は5種類からお好きなものをお選びいただけます。」

醋滷麺

〆の麺飯は5種類から選べるという。全て注文することも可能だ。※召し上がれる場合に限ります。

今日は、なんて幸せな日なんだ。

山田「デザートも複数の種類をご用意しており、お客様のご希望に応じて全ての種類をお楽しみいただくことも可能です。」

ただ食事をするだけでなく、中国料理の奥深さを五感で感じることができると思った。

夫に聞いた
「どうして、急にデートに誘ったの？」

夫「実は、昇進したんだ。そのお祝いを君としたくて。」

私は、背筋を伸ばした。そして
「昇進、おめでとう。頑張ったね。では、私も報告があるの。
妊娠しました。私たちに赤ちゃんができました。」

彼は、喜んで立ち上がった。

やはり、KOBAYASHIは幸せにあふれている。
間違いなくパワースポットだ。

＜店舗情報＞

住所：東京都港区六本木3-3-29 六本木アーバンレックス B1F
電話番号：050-1809‐4801
営業時間：17:00 - 23:00（L.O. 22:30）
土曜日限定　12時IN・14時LO・14時半退店
定休日：日曜日