「え？どうして？」
彼にそう伝えられた時、私は、自分の耳を疑った。

だって・・・
「来週、宮古島のバーに行かないか？」

三か月前から、付き合い始めた彼には、しっかりと伝えていた。
私が、海が好きなコト。ダイビングやサーフィン、マリンスポーツが大好きなコト。
特に、宮古ブルーと呼ばれる宮古島の青い空と海が好きなコト。

「それなのに・・・ＢＡＲって・・・」
宮古島の海が好きだという共通点から、お付き合いが始まったはずなのに・・・
彼のコトが分からなくなった。

2人で宮古島の繁華街を歩く。異国情緒漂う街並みが続く。
やっぱり彼といると心地よい。このままずっと歩いていたい。

「夕食は、エスニックを食べよう。予約してあるんだ。」

ぐいっと手を引っ張られた。この強引さも嫌じゃない。

二人は、ふんわりとした宮古の風に押されるように店に入った。

ベトナム系のエスニック料理。全てが洗練されている。
彼は、ベトナムで体験した神秘的なエピソードを、少年のような無邪気な表情で語った。

「ずっとこの時間が続けばいいのに。」

私は、そう思った。

周囲を見て、驚いたのは、観光客だけでなく、地元の人たちも多くいること。

「さあ、いよいよ！ＢＡＲに行こう！」

彼は、テーブルにある手を引いた。しかし、その先がレストランの出口ではない。

「どこに行くの？」

彼は、答えず。笑顔だけだった。

「さあ、ここだ！」

声が出なかった。宮古島にこんな世界があるなんて・・・ここは日本なの？

「森下直哉さんという新進気鋭のデザイナーが創り上げたそうだ。」

さらに彼はつづけた。

「１９２０年代禁酒法時代の酒場がテーマらしい。」

「禁酒法時代の酒場？」

言葉が、矛盾しまくっている。
彼が、パパみたいな優しい目をして教えてくれた。

「１９２０年代、アメリカには、スピークイージーと呼ばれる文化が生まれた。
スピークイージーとは、潜り酒場を意味していて、他の人に聞かれないようにこっそりと話すことからそう名付けられたそうだ。」

「だから、隠し扉があったんだ。まるで映画の世界ね。」

 「その通り」

当時は、ニューヨーク市だけでもかなりの数のスピークイージーが存在していたそうだ。
彼は、私の手を握りながら

「西麻布と宮古島に、行きつけのBARがあるなんて、ボクってカッコいいでしょう？」悔しいけれど、その通りだ。

オーナーである木村剛士さんが、お話を聞かせてくれた。

「宮古島といえば、おいしい果物や野菜があります。これを使ったオリジナルカクテルを愉しんでいってください。」

帰り道、少し酔った私の肩を彼が抱きしめた。
私は、なぜだか、意地悪をしたくなった。

「今、私にキスしようとしたでしょう？」

「え？そんなこと思ってないよ。」
彼は、大人のくせに驚いていた。 

私は・・・「そうか、残念」と返した。

すると、彼は私をグイっと引き寄せた。 

プロフィール

木村剛士

20代から飲食店の店舗プロデュース
１番初めはイタリアンレストランの店舗立ち上げ
その後、六本木のクラブや西麻布のBAR、創作料理店、
都内の焼肉屋、立ち飲み屋、エンタメ系カラオケ店等