「今日は、とっちめてやろう」
彼は月に数回、東京から姿を消す。どこにいっているのだろう？

「先週の水曜日と木曜日、どこに行ってたの？答えて！」
私は、刑事ドラマばりの強引な追求をした。
でも、彼はサラリと答えた。

「知床だよ。来週、一緒に行く？」
「う、うん。」

羽田空港に立つ私の頭の中は、「？」でいっぱいになった。
なぜ、知床？
なぜ、頻繁にいくんだろう？
なぜ、北海道なのに気軽なの？

「さあ、行こう！」

突然、私の手を掴んだ。
笑顔の彼は、驚くほどの軽装。やはり、旅慣れしている。

羽田からたった2時間。
私は、レンタカーに揺られ北海道の大自然を眺めている。
不思議な気分だ。

初めて見た知床の大自然に圧倒された。

北海道ってスゴイ！日本ってスゴイ！
しかも、大好きな彼と。自然とテンションもあがる。

「いつか、ここに連れてきたかったんだ。」
「え？」

彼は車を停めた。外に出ると信じられない光景が続いていた。

どこまでも・・・どこまでもまっすぐな道。それが夕陽まで続いている。

「ここは、天に続く道」

夕映えの彼を見ながら「この時間がずっと続けばいいのに。」

ホテルに着くと、元気のよいおばちゃんが駆け寄ってきた。

「お待ちしていました！！！！」
「お母さん！ただいま！」
「すぐに食事にしましょう！」

オーナーである藤本創子さんの明るい声が響く。

「ボクは、藤本さんが、ホテルを開くと聞いた時すぐに飛びついたんだ。」

ホテルに入ると、素敵なダイニングに通された。

藤本「これは、今日の朝、市場にいって仕入れてきた魚です。いい物がはっていたので・・・」

田舎のお母さんのような優しい口調。目の前に、どんどん料理がでてくる。
でも、味付けや盛り付けが田舎っぽいわけではない。全てが洗練されている。

「お母さんの料理を絶賛する料理人もいるんだ。」

藤本創子さんは、斜里町の美味しいモノを探して、毎日のように市場を回ったり、知り合いの農場を訪ねている。

彼女は、ゲストを喜ばせることが大好きだという。

「北海道には、まだまだ美味しい物がたくさんあるのです。」

「私と一緒にお酒を飲みましょう！お酒はご自由に飲んでいただいて構いません。」

生ビール（サッポロクラシック）や日本酒、ウイスキー、ワインなど豊富な種類のお酒が用意されていた。

藤本さんは、数年前、子育てが終わった自宅でAirbnbを開業。
すると、瞬く間に人気を博した。
世界中からゲストが訪れ、その殆どがリピーターとなった。
Airbnbからは、スーパーホストに任命された。

現在は、息子で琉球大学に在学中の雄太くんが、ホテルを手伝っている。

雄太「ようこそ、ホテルを案内します。」
沖縄の太陽でこんがり日焼けした笑顔で私のカバンをもってくれた。

「素敵なインテリア。こんな洗練されたホテルなんですね。」

雄太「デザインは、 HOUSETRADさんにお願いしました。
HOUSETRADさんは、BRUTUSやVERY、SAFARIに何度もとりあげられている人気のデザイナー。
東京まで行って、直談判してお願いしました。」

雄太「もともとは、ここ斜里町の宿泊研修施設だったのですが、それを買い取ってHOUSETRADさんのお二人にリノベしてもらったんです。だから、宿泊費も安くできるんです。」

雄太「ちなみに、お風呂は、天然温泉です。斜里町自慢の泉質です。」

彼が、月に数日、消えた理由が分かった。

ここならば、全てが揃っている。

「このホテルは、ワーケーションとしても最適で、
Wifi6も完備しているから、渋谷のオフィスと比べても遜色ないんだ。」

「私もここの会員になろうかしら・・・」
彼は、PCに向かいながらこう答えた。

「そういうと思った。冬は、ホテルの裏がスキー場になっているんだ。」

私は、彼の背中にそっと抱きついた！その時・・・・

「明日は、農業体験にいくわよ！」

藤本さんが私に抱きついた！

一組限定の小さな民泊で世界中の人々を驚かせた母が、
数年前、この施設が築40年の古さと大きさの割になんと400万円の安さで売りに出されているのを発見し、見学に訪れました。

その際、建物の正面及び天に続く道は真西を向き、
そこから見えるオホーツク海に沈む夕日に目を奪われたと言います。

知床に心を打たれた母は、天に続く道の入り口から、沖縄で大学に通う僕に
「この建物を購入したい。ここならきっとみんなを喜ばせる何かができるはず！」
「ただお金が足りない」
「協力してほしい」と電話をかけてきました。

その年はコロナ真っ只中・・・
偶然にも大学在学中に何か経験をしようと必死に貯めた約300万円がありました。

「きっと成功する！」

心を打たれた僕は共に挑戦することを決めました。

そんなホテルの名は、「雪霞SHIRETOKO」

オホーツク海、知床連山は、押し寄せる冬の流氷が「雪」と共に白に染まる幻想的な雰囲気を作り出します。

また、朝には知床連山から登る朝日が、透き通らせるように心に沁みます。

「霞」には朝焼けや夕焼けの意味があります。

＂雪＂、＂霞＂

知床が織りなす世界観に私たちは心を打たれたのです。
それを世界の人々に届けたいという思いを持っています。

プロフィール

藤本 雄太

1997年12月28日、北海道旭川市生まれ。
琉球大学在学中（休学中）。地理学専攻(他に街おこし、観光産業学など)。
大学進学後に母・創子が旭川市の実家で民泊業を始める。休暇中に自身も接客に関わる。
（実家の民泊は１日１組限定であったが）全世界からのゲストと交流し
（他にない接客にて地域文化、暮らし、食文化へ関心のあるゲストから）称賛を受ける母の姿を見て、さらに大きな施設にて規模を拡大しての宿泊施設経営に興味を持つ。

2016年 旭川明成高等学校 卒業
2018年 国立大学法人琉球大学 国際地域創造学部 入学(休学中)
2021年10月 Resonanz(株)取締役